SSブログ

ベルガモット探偵事務所②


かるてっとん

 リトル・モグの隠れた才能

   ベルガモット探偵事務所②

写真 2016-08-04 20 40 23.jpg
「ところでベルガモットさん、探偵さんだって言ってたよね?なのにまだ、おトイレに入ってるだけだね、ごめんね。」

ここ何日も海外のミステリー小説を読み倒し、すっかりその探偵になったつもりで、朝からチョコレートなんか飲んだのがいけなかった。それも、部屋のあちこちに食べかけてあった板チョコを熱湯で溶かしたホットチョコレートもどきなんて。

「これで、おなかこわした探偵さんの感じ、ちょっとは出たかなあ?探偵さんかあ。探偵…といえば、探偵事務所があった方がいいよね。ベルガモットさんも、事務所欲しいよね?」

ベルガモット・ヤマザキは、1LDKの住居兼事務所を恨めしげに見回した。新しい年が明けようが、やっぱり勝手に部屋は生まれ替わりはしない。事務所と呼べる要素はどこにもなく、9割5分、生活臭ぷんぷんの独身男の部屋だ。

「ベルガモットさん、独身じゃイヤだった?でもさ、奥さんいる人は、部屋に落ちてるもの食べておなかこわしたりはしないと思うから、ここはガマンしてね。でも、奥さんの代わりに誰か欲しいよね?」

けだるい足取りでソファまで行くと、クッション面している洗濯物の塊を、もっとクッションっぽくまとめた。そして床に散らばったスポーツ紙を拾いながら、埃を追い出そうと窓を開ける。うんぐっ…、久しぶりの朝は、身を切るような寒さだ。
「あらー、あけましておめでとー!今日はずいぶん早いじゃないのぉ!」
窓の下の方から、ニット帽をかぶった小太りのおばちゃんが、ほうき片手に手を振っている。色白なのに顔だけが赤い、汗っかきの雪だるまみたいだ。だから、密かに“スノーマン”と呼んでいる。

「ベルガモットさん、小太りのおばちゃんじゃ、イヤだった?でも、世の中そんなもんだよ。そうそう美人さんとは出逢わないもん。それにこういうおばちゃんは、すごくやさしいよ、きっと。」

冬場でもこんな汗っかきなくせに、日光アレルギーで肌を露出できないからと、今年の夏もまたきっと長袖長ズボンをはいて顔を真っ赤にして過ごすんだろう。スノーマンに出会ってから、夏の体感温度が8度くらい暑く感じるようになったくらいだ。しかし、寒い冬に見るには調度いい風貌だ。
「起きてたなら言いなさいな。カケでいいわね?もう朝食っていうより昼食になっちゃうけど、持ってってあげるわぁ。今日は寒いから、早く窓閉めるのよぉ、ケンジちゃあん。」
一方的に話し終えたスノーマンは、ベルガモット・ヤマザキを“ケンジちゃん”と呼ぶ。スノーマンお気に入りの演歌歌手の若かりし頃に似ているかららしい。勝手にあだ名をつけているところは、お互い様ってわけだ。

「美人さんを前にかっこつけるより、自然でいられる人といた方がぜったいいいと思うよ、ボク。」

どわどわどわと、たわんだ外階段を踏み鳴らし、スノーマンが勢いよく玄関から飛び込んできた。ローテーブルの大量の文庫本を押しやって、湯気の立つかけ蕎麦の器を置くなり、流し台の洗い物に取りかかるやいなやしゃべり出した。
「ああん、たった二日会わないだけで、どうしてこんなに散らかっちゃうの、ぶふふ。もう、この台所ったら、インスタントもん買うくらいなら、いつでも食べに下りてらっしゃいな、んもう、水臭いんだからぁ。まあ、そこがケンジちゃんらしくていいんだけどね、ぶふふ。」
スノーマンは、年越し蕎麦のなんやかんやで昨夜までの二日間、働きづめだったはずなのに、実にアクティブな雪だるまだ。そうこうするうちに、スノーマンは洗濯物製クッションを抱えて、どわどわどわと階段を下りて消えた。

「スノーマンさん、恋人って感じにならなかったや。ごめんね。親戚のおばちゃんって感じでもないしなあ。どうしようかなあ…(ぐぅ~)。あ、おソバのこと書いてたらおなかすいちゃった!ボク、マダムんとこにごはん食べに行ってくるね。また、あとでね、ベルガモットさん。」


かるてっとんフォトグラフィー Instagram 【quartetton.halfway
】 にて公開しています。

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

ベルガモット探偵事務所①|- ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。